佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線10 韮山~田子の浦 ― 2015年02月21日
三島より韮山、修善寺方面に駿豆鉄道あり。
韮山
北条駅より東八町に韮山城址あり。附近に江川氏旧宅、姪が小島などあり。
廂朽ち柱くろめるこのあたり君や倚りけむ秋の日影に
にら山のふりにし家のいき柱今も朽ちせで残る尊とさ
足たたぬ姪がこ島に年を経てゐながら人を靡けつるかな
天そそる山脈みつつここにしてますらを心ふりおこしけむ
三津浜
南条より西へ約三里。
三津の浜しづけき波路ながめつつおもふ事なき朝ありきかな
鏡なす海の面はやも春めきていわしむれよる三津の内海
修善寺
大仁駅より二十町。
湯の室の屋蔭に青き枇杷の葉の露をもちつつ一日暮れたり
瀬の音を聞てゐたればいつとなく瀬の音の中にわが憂消ゆ
欄により清き流を眺めけりのんびりとした心になりて
桂川ながれの音をうつつにも夢にも聞きて安くねむりぬ
朝風の温泉の街の山青み日もやはらかく輝けるかな
桂川苔むす岩に夕日さしあなたこなたに鶺鴒飛ぶも
かつら川清き瀬の音に身も心もいみきよまはり二日三日経ぬ
ふたたび本線に帰りて三島の次の駅は沼津なり。
静浦
沼津の南。牛臥、桃郷、静浦等。
空蝉の世を卒はるまで富士のねにむかへる時の心ともがな
静浦の雨まづ晴れてつぎつぎに伊豆の山々雲にうかべり
東南風ふき白波立てば伊豆の海釣する船の数の乏しき
三間にあまる銛の柄たばさみ持ち大蛸つくと船こぎすすむ
老松の居並ぶ裾に浪はよせつ浪は返しつ静浦のはま
たかねの雪桃のくれなゐ空の色とわが前に続く春真昼かな
浮島が原
原、鈴川の中間。
ふきおろす富士の高嶺の朝嵐に袖しをれそふ浮島が原
富士のねを木の間木の間にかへり見て松の蔭踏む浮島が原
田子の浦
鈴川駅附近の海浜。
田子の浦ゆ打出て見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける
昼見れどあかぬ田子の浦大君の命かしこみ夜みつるかも
するがなる田子の浦波たたぬ日はあれども君を恋ひぬ日はなし
補録
浮島が原
言の葉の及ばぬ身には目に見ぬもなかなかよしや雪の富士の嶺
田子の浦
沖つ風よさむになれや田子の浦海人の藻塩火たきすさむらん
いつとなき富士のみ雪の面影もただ秋風の田子の浦波
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