佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』東海道線13 蒲郡~津島 ― 2015年02月24日
蒲郡
波の音終日聞きぬ海の風吹き通す家に夏をわすれて
岡崎
徳川家康生誕の地。
矢はぎ川わたす長橋長ければたちたゆたはぬ人なかりけり
天正のむかしを偲ぶ岡崎に今宵もののふ銃まくらせり
鳴海
大府より十町。有松絞の産地。
鳴海潟しほせの浪にいそぐらし浦の浜路にかかる旅人
絞結ふ少女の唄もしめやかに鳴海の町は春の雨ふる
知多半島
大府より武豊線、熱田より愛知電気鉄道あり。
北浦へ岡の茅原を夕越えて落つる日影も何かたゞよふ
桶狭間
大府より大高に到る間の右に見ゆる丘陵の間にあり。
雲の峰くづれ〳〵て夏草の真日にむさるゝ桶狭間山
はたた神なるみの浦の浦風にあとなく消えぬ夕立の雲
熱田神宮
草薙の剣を祀れる熱田神宮あり。今名古屋市の南部をなす。
八剣の熱田の宮のひろ前の楠の若葉の初夏の陽よ
名古屋
こがねの鯱日に輝くを仰ぎみつつ昔思ひ居れば喇叭の音聞ゆ
早春や高く聳ゆる御嶽の雪火の如く燃ゆる夕暮
初夏の夕ぐれ窓をあけて見れば目にさやかなり麦生の緑
曇り夜を名古屋の空のほの明り遠く眺めて郊外をゆく
中村公園
名古屋駅の西一里にあり。
天の下握らん人のうぶ声と誰かは知りし藪かげの道に
中村の里にかへりてほほゑみしゑがほぞ君のさかりなりける
瀬戸
名古屋より電車あり。陶器の生産地。
陶器のうは絵かくべくやとはれて今年もくれぬ瀬戸の山里
すゑものゝ土灑す槽の水温む日永の軒に柳あをめり
瀬戸川の底にちらばるすゑもののかけら光りて寒し冬の日
犬山
名古屋より電車あり。
うろこなる秋の白雲たなびきて犬山の城松の上に見ゆ
尾張野の北のはづれの城に立ちて大伊吹嶺の秋姿見る
城の上に鴉むれ居てなきさわぎ眼界の野に落つる秋の日
うちけぶる雨の若葉の木曽川にぬけ出しごと城ぞ立ちたる
津島
名古屋より電車の便あり。
松のひまに提灯の火ぞほの匂ふ舟山車いまか漕ぎいでぬらし
同 朝祭
夜のほどによそひかへつる猩々緋金高縫の目もさむる幕
補録
鳴海
君恋ふとなるみの浦の浜楸しをれてのみも年をふるかな
風吹けばよそになるみのかた思ひおもはぬ波に鳴く千鳥かな
浦人の日もゆふぐれになるみがたかへる袖より千鳥鳴くなり
鳴海潟しほのみちひのたびごとに道ふみかふる浦の旅人
熱田神宮
駒とめて涼みてゆかんちはやぶる夕日あつたの杜の下蔭
犬山
犬山の城の白壁さやかにもうつりて清し木曽川の水
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