更新のお知らせ ― 2015年01月18日
「やまとうた」の『拾遺愚草』資料集に「難題詠百首和哥(藤川百首) 定家・為家・為定・安嘉門院四条 運賢筆本」の影印PDF版と翻刻テキストをアップしました。過日このブログでも報告しました私蔵の古写本の「藤川百首」です。
定家の百首については、御所本六家集本収録のテキストに比べて特に善本とは言えないようです。誤写や誤脱が少なからずあり、仮名遣なども定家仮名遣を逸脱した例が多く見られます。しかしこの四人に実隆を加えた『藤川五百首抄』の寛文七年板本(新編国歌大観所収のテキストの底本)に比べると遥かに正確で、新編国歌大観のテキストの誤りを正すには恰好のテキストではないかと思います。
翻刻して校異を調べてみたのはやはり大変有益な作業でした。定家の「藤川百首」の本文改訂をおこないましたので、後日『拾遺愚草全釈五』や『新校拾遺愚草』に反映させ、改訂版発行のお知らせができることと思います。
翻刻テキストには、板本「藤川五百首抄」及び続群書類従所収の各歌人の百首との校異を掲げました。定家の百首については私家集大成(底本は御所本六家集本)との校異も掲げてあります。縦書・ルビ対応のブラウザ(Chrome、IE、Safari等)の最新バージョンで御覧下さい。
また、資料集のリンク集に国立国会図書館のデジタルアーカイブから定家関連の書物へのリンクをいくつか張りました。
更新のお知らせ ― 2015年01月10日
千人万首メモ 孝明天皇 ― 2015年01月07日
孝明天皇 こうめいてんのう 天保二(1831)~慶応二(1866)
仁孝天皇の第四皇子。明治天皇の父。母は正親町実光女、雅子。諱は統仁。幼名は熙宮。
天保十一年(1840)三月十四日、立太子。弘化三年(1846)、父仁孝天皇の崩御により践祚。攘夷を強く支持しつつも倒幕には反対し、公武合体を推進した。異母妹和宮の徳川家茂への降嫁を容認する。慶応二年(1866)十二月二十五日、病により崩御。三十六歳。
立春
はるの立つかしこ所の鈴の音に神代しられて仰ぐそらかな(列聖珠藻)
「新年の祭りをする賢所で侍女が鳴らす鈴の音に、神代もこうであったかと知られて、春の立つ空を仰ぐことよ」。
佐佐木信綱編『列聖珠藻』より。元治元年(1864)の作という。
「かしこ所」は八咫鏡を祀った所で、宮中祭祀の中心の一つ。新年の祭などで、天皇が賢所の内陣にて拝礼する際、内侍や巫女などが鈴を鳴らしたものらしい。そうした古式をゆかしみ、神代の立春を仰いだのであろう。
安政二年きさらぎなかの四日、かねて約し置きたる近衛の亭に行きむかひ、名にしおふ糸ざくらを見て
見れどあかぬ風をすがたの糸ざくら花のいろ香は長々し日も(孝明天皇紀)
「風をさながら姿として靡く糸桜よ。花の色香は長々と続き、長々と続く春の日にあっても、いくら見ても見飽きないことよ」。
『孝明天皇紀』より。安政二年(1855)二月十四日、五首のうち第二首。「近衛の亭」は京都御苑内に跡地を留め、周辺の糸桜(枝垂桜)はなお毎春美しい花を咲かせている(上の写真参照)。
「長々し」は「色香は長々し」「長々し日」と前後にかかる。「長々し」はまた「糸」の縁語。結句は初句に戻って「長々し日も見れどあかぬ」と円環する。
たやすからざる世に、武士の忠誠のこころをよろこびてよめる
もののふと心あはして巌をもつらぬきてまし世々のおもひで(孝明天皇紀)
「武士と心を合わせて、巌をも貫いてしまおう。代々の思い出として」。
『孝明天皇紀』より。文久三年(1863)十月九日、「守護職松平容保に宸筆の御製を賜ふ」とある二首の、後の方。前の歌は「和らぐもたけき心も相生のまつの落葉のあらず栄へむ」。
京都守護職として新撰組などを用い京都の治安維持に当っていた容保への厚い信頼の感じられる歌。『孝明天皇紀』同日の記事には天皇の宸翰も載せ、「堂上以下、疎暴ノ論、不正之所置、増長ニ付キ、痛心堪ヘ難シ。下内命之処、速カニ領掌シ、憂患・掃攘、朕ノ存念貫徹之段、全ク其方忠誠深シ。感悦之餘リ、右壱箱、遣ハス者也(原文は変則的な漢文)」とある。
題不知
戈とりて守れ宮人ここのへのみはしのさくら風そよぐなり
「戈を手に取って守れ、宮人たちよ。ここ禁中の御階の桜が風にざわざわと音を立てている」。
『日本精神文化大系』第一巻の歴代御製集より。典拠も制作年も未詳。久坂玄瑞の備忘録「錬胆健体」に「今上帝御製」として見え、文久年間(1861~1864)頃、志士の間に知られていたことがわかる。
「ここのへ」は九重で皇居の異称であるが、「此所の辺」の意も読み取った。「みはしのさくら」は紫宸殿の南階下の東に植えられた山桜。儀式の際には左近衛府の官人が傍らに立ったので、左近の桜とも呼ばれる。
(2015年1月25日改訂)
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遅くなりましたが、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。本年もどうぞよろしくお願い致します。
『孝明天皇紀』は国立国会図書館の近代デジタルライブラリーにて全220巻が閲覧可能です。
http://kindai.ndl.go.jp/search/searchResult?searchWord=%E5%AD%9D%E6%98%8E%E5%A4%A9%E7%9A%87%E7%B4%80
新刊のお知らせ ― 2014年12月29日
アマゾンのkindleストアにて電子書籍『美しい江戸かるたと読む百人一首』と『拾遺愚草全釈シリーズ』の第16・17巻を出版しました。
『美しい江戸かるたと読む百人一首』は、江戸時代の百人一首かるたの読み札・取り札すべての高精細カラー画像を収め、各歌についての簡略な解説や作者略伝を添えたものです。以前「やまとうた」の「百人一首カルタ美術館」というコンテンツに読み札(絵札)全百枚を掲載していたのと同じカルタですが、今回は取り札もすべて収めました。
百人一首カルタ美術館は多くの方からご愛顧を頂き、さまざまな出会いもあって、制作者にとって思い入れの深いコンテンツだったのですが、ホームページ容量の関係からやむなく削除せざるを得ませんでした。電子書籍という形で、一部だけでも復活できたのは、感慨深いところです。今後も百人一首かるたの本を何冊か出版する予定です。
この本はkoboでも販売する予定ですが、今しばらくお待ち下さい。
下のサンプル画像をクリックすると拡大します。






これにてやまとうたeブックスも仕事納めです。一年のご愛顧に感謝申し上げます。来年もどうぞよろしくお願いします。
それではよいお年を。
新刊のお知らせ ― 2014年12月10日

アマゾンのkindleストアにて佐佐木信綱著『定家歌集(補訂版)』と『拾遺愚草全釈シリーズ』の第12~15巻を出版しました。
『定家歌集』は楽天koboからもご購入頂けます。
![]() 定家歌集(補訂版)-【電子書籍】 |
『定家歌集』は明治42年に博文館より刊行された文庫サイズの小本で、評伝「藤原定家」、詳細な「定家年譜」、秀歌撰「定家歌集」の三部から成ります。全集などには収められておらず、国文学専門の古書店などでも滅多に見かけません。著作権が切れたのを機に、電子書籍として出版することにしました。
佐佐木信綱の選んだ337首はさすがと唸らされるもので、定家の多彩にわたる歌風を余すところなく掬い取っていると感じます。訳注などは付いていないのですが、比較的わかりやすい歌が多く(この点は編者の好みが或る程度反映していると言えましょう)、意おのずから通ずという歌が少くないと思います。

なるべく原本の姿を忠実に移すことを心がけました。表紙は簡素この上ないものですが、原本と似た書体を探し出すなどしてそれなりに苦労の作なのです。仮名遣いはそのままにしましたが、漢字は現在通行の字体に改め、難読字にはルビを振り、年譜に引用された漢文は訓み下し文に改めるなどしました。この年譜は岩波文庫版『藤原定家歌集』の巻末に収められた略年譜の前バージョンといったところで、『明月記』からの引用を主とした、詳細にわたるものです。
下のサンプル画像をクリックすると拡大します。


誤植と思われる箇所は、後年同じ編者によって編まれた岩波文庫版『藤原定家歌集』や『拾遺愚草』定家自筆本などによって正しました。
なお楽天koboのepub版でしたら、電子ブックリーダーやタブレット端末などをお持ちでない方でも、デスクトップアプリを下記サイトよりインストールすることで、パソコン上で読んで頂くことができます。
http://books.rakuten.co.jp/event/e-book/application/この本はDRMフリーです。
今後は著作権の切れた和歌関係の本の復刻版なども積極的に出版してゆこうと目論んでおります。
更新のお知らせ ― 2014年11月17日
「やまとうた」の『拾遺愚草』資料集に「拾遺愚草―藤原定家自筆本による―(PDF版)」をアップしました。最初DL-Marketで無料公開し、更なる校正を経て有料販売に切り替えたものですが、出版直後は少し売れたものの、その後ぱったりと売れなくなりましたので、これ以上DL-Marketに置いておくのも空しく、再び無料公開に改めました。有料版にも誤りがいくつか残っており、わざわざ買って下さった方には申し訳ありませんでした。今回アップロードしたファイルは最新改訂版ですので、旧版をダウンロードされた方はぜひ再ダウンロードのうえ上書き保存なさって下さい。
新刊のお知らせ ― 2014年10月31日
アマゾンにて『正治二年院百首全釈』『千五百番歌合百首全釈』を出版しました。それぞれ「拾遺愚草全釈シリーズ」の第10・11巻になります。
書籍の画像をクリックしますと、商品の詳細ページへリンクしますので、内容につきましてはそちらをご覧下さい。やまとうたeブックスのサイトでも新刊案内に掲載しております。
以下はサンプルページです。クリックすると拡大します。
「拾遺愚草全釈シリーズ」は20巻ほどを計画しております。正編上巻の15種の百首歌のほかに、秀歌の多い『韻歌百廿八首』『仁和寺宮五十首』『最勝四天王院名所和歌』、員外からは比較文学的な興味の深い『文集百首』と『韻字四季歌』、また歌学史上重要視された『藤川百首』を含める予定です。内容は『拾遺愚草全釈』五巻と重複しますので、ご注意ください。
千人万首 烏丸光広 旅 ― 2014年10月13日
名所湖
浪の音も猶あらましくすはの海や嵐の空の暮れ初むるより
「波の音も一層荒々しくするようになった、諏訪の湖よ。嵐吹く空が暮れ始めてからというもの」。
御神渡りで名高い諏訪湖は氷った湖面を詠まれることの多かった歌枕で、嵐や波の音を詠んだ前例を知らない。さしたる景趣は感じられないものの、「あらまし」「あらし」「そら」「くれそむる」とラ行音・サ行音を絡めるように進める韻律法で、耳に残る歌となった。初句・第三句の字余りも、一首の奏でる音楽の重要なアクセントになっていよう。慶長千首。
「すは」の「す」には動詞「為」の意が掛かる。
富士
雲かすみながめながめて富士のねはただ大空につもる雪かな
「富士を隠す雲霞を眺め眺めして、ついに現れたその嶺は、ただ大空に積る雪であったことよ」。
慶長八年(1603)以後たびたび江戸に下向した光広は、富士山を実見して詠んだとおぼしい歌を『黄葉和歌集』に二十首残している。雄大な山容に対する感動が瑞々しく、富士山文学史に名を刻まれるべき雄編であろう。掲出歌はその二首目で、冒頭の「立ちまよふ霞も山のなかばにてふじこそ春の高ねなりけれ」等と共に早春を想わせる富士の有様である。
同前
白妙の雪にあまぎる富士のねをつつみかねたる五月雨の雲
「真っ白な雪のために曇っている富士の嶺を、五月雨を降らせる雲が包みかねていることよ」。
夏の歌から採った。富士の嶺は五月雨を降らせる雲の上に突き出ているのだが、雪でよく見えないと言うのであろう。山麓の梅雨と山頂の吹雪とは面白い対照である。「つつみかねたる」の語が富士の雄大さを引き立てている。
「あまぎる」は「天霧る」で、本来は霧や降雪などで空が曇っているさまを言う語。
同前
年へても忘れぬ山のおもかげを更に忘れて向かふ富士かな
「何年経っても忘れない山の面影であるが、今またその面影を忘れて向き合う富士であることよ」。
富士二十首を締めくくる歌。最後に見た時から何年も慕い続けてきた、記憶の中の富士。ところが再び富士山を眼前にした瞬間、その面影は忘れ去られて、ただただ今の姿に見とれてしまう。勅使などに随行して数年置きに江戸へ下向し、東海道から仰ぐ富士に親しんできた光広の実感であろう。
余録
富士のねをみるみる行けば時しらぬ雪にぞ花の春をわするる
立ちおほふ霞にあまる富士のねにおもひをかはす山ざくらかな
ひえの山廿ばかりはかさぬとも都の秋に雪やみざらむ
もろこしになにか及ばん日の本とおもへば不二の山も有りけり
(2014年12月30日加筆訂正)
新しいKindle ― 2014年10月04日
新しいKindle(Wi-Fi)を早速購入してみた。キャンペーン情報付のモデルで、定価6980円のところ、Amazonのプライム会員にはクーポンコードの特典があり、僅か3980円で手に入れられる。「キャンペーン情報付」というのは、スリープモード時に広告などが表示されるモデルで、ちょっと煩いが、スワイプすればすぐに広告は消える(上の写真参照)。
「Kindle」という素っ気ない名称からすると、Amazonは今後このタイプを主力商品にしてゆこうと目論んでいるのだろうか。
Kindle paperwhiteとの大きな違いは、フロントライトが内蔵されていないこと。老眼の私はいつもかなり明るめに調節していたので、新モデルの画面は随分暗く感じたが、太陽光や読書灯のもとでなら全く読書に支障はない。本体はすこし軽くなり、厚みは増した。もちろんレスポンスはpaperwhiteの2012モデルから相当に向上している。家の中ではKindle paperwhiteを、戸外ではKindleをと、使い分けようかと考えている。

左が新モデル、右がpaperwhite(2012モデル)。paperwhiteは内蔵ライトをかなり明るめにしているが、太陽光のもとだと、見えやすさに変りはない。
ソフトの面ではpaperwhiteと変らない。辞書も使えるし、メモやハイライトの機能もあり、フォントも明朝体なら二種類の選択肢がある(デフォルトと筑紫明朝)。もちろん語彙検索もできる。
検索に便利な電子書籍は、古典や古典の研究書を読むのに極めて好都合なのだが、残念なのはこの分野ではなかなか電子書籍化が進んでいないことだ(いや、研究書などはどの分野も似たようなものなのだろうが)。
尤も、文庫化された古典の註釈書などは続続と電子化されているようだ。先日も伊藤博博士の『萬葉集釋注』の集英社文庫版の電子化を知って驚喜したものだが、リンクによる脚注機能もちゃんと使えるし、地図などの画像も入っていて、文庫本と比して遜色はないどころか、便利さの点では上回るところがある(但し単行本版の電子書籍はpdfなのか画像なのか、語彙検索などは出来ないようだ。詳しくはサンプルをダウンロードして確認されたい)。
楽天のkoboもauraという優れた電子書籍リーダーを出したし、タブレットやスマホを読書に用いる人も増えている。電子書籍は着実に普及・定着してゆくと思う。あとは良書の電子書籍化を待つばかりだ。
藤川百首の古写本を発見 ― 2014年09月27日
一時買い集めていた新古今時代の歌集・歌書の写本を整理していたら、藤川百首を収めた本を見つけた。外題には「順徳院御百首」とのみある。定家の評語が付いているのに惹かれて数年前ヤフオクで落札したものだが、よく見もせず本棚に積んだままにしてあったのだ。先日取り出してみると、順徳院の御百首の後に慈円の百首歌があって、その次に藤川百首が収められていた。表題「難題詠百首和哥」の下に「定家 為家 為定」と作者名を記してある通り、藤川百首題を詠んだ三人の作を順に並べてある。四字題の下には安嘉門院四条(阿仏尼)の歌が小字で添えられている。
『藤川五百首鈔』とは異なり、加注と実隆詠はない。『群書解題』の藤川百首の項を見てみると、「商山集」なる本がこの四人の百首詠を収めているようだ。何か関係があるのかも知れない。
順徳院御百首のあとに識語があり「明応八己未年三月廿三日 運賢」と記している。戦国の世だ。運賢なる人物は、ちょっと調べてみたが判らない。
ざっと目を通してみただけだけれど、私家集大成や新編国歌大観が底本としている御所本六家集本に近い本文のようで、板本とは異同が多い。
先日出版した『拾遺愚草全釈五』では、藤川百首の本文は板本と続群書類従・私家集大成に頼るしかなかったのだが、まさか自分の本棚にこんな古い写本があったとは…。
新たに校訂して、直すべき箇所があれば改訂版を発行します。
そのうち翻刻してウェブサイトに載せてみたいとも思います。何かお気づきのことがありましたら、ぜひメールにて御教示下さい。
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