白氏文集卷十三 秋雨中贈元九 ― 2009年10月18日
秋雨の中、元九に贈る 白居易
不堪紅葉青苔地 堪へず紅葉青苔の地
又是涼風暮雨天 またこれ涼風暮雨の天
莫怪獨吟秋思苦 怪しむなかれ独吟に秋思の苦しきを
比君校近二毛年 君に比してやや近し二毛の年
【通釈】感に堪えないことよ。紅葉が散り、青い苔に覆われた地のけしきは。
そして冷ややかな風が吹き、夕雨の降る空のけしきは。
怪しんでくれるな。独り秋思の苦しさを吟ずることを。
半白の髪になる年が君よりも少し近いのだ。
【語釈】◇二毛年 白髪混じりの毛髪になる年。潘岳の『秋興賦并序』に「晉十有四年、余春秋三十有二、始見二毛」とあり、三十二歳を指す。白居易の三十二歳は西暦803年。歌を贈った相手である元九こと元稹よりも七歳年上であった。
【補記】親友の元九こと元稹に贈った歌。和漢朗詠集に第一・二句が引かれている。謡曲『紅葉狩』にも引用されている。
【影響を受けた和歌の例】
もみぢ葉も苔のみどりにふりしけば夕べの雨ぞ空にすずしき(相模『相模集』)
もみぢ葉を夕吹く風にまかすれば苔むす庭にうちしぐれつつ(慈円『拾玉集』)
苔むしろ紅葉吹きしく夕時雨心もたへぬ長月の暮(藤原定家『拾遺愚草員外』)
【参考】『狭衣物語』巻一
雨少し降りて、霧りわたる空のけしきも、常よりことにながめられたまひて、「またこれ涼風の夕べの天の雨」と、口ずさみたまふを、かの、常磐の森に秋待たん、と言ひし人に見せたらば、まいて、いかに早き瀬に沈み果てん。
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