全唐詩卷四百十一 菊花 元稹 ― 2009年10月22日
菊花 元稹
秋叢繞舎似陶家 秋叢舎を繞りて 陶家に似たり
遍繞籬邊日漸斜 遍く籬辺を繞れば 日漸く斜く
不是花中偏愛菊 これ花中に偏に菊を愛するにあらず
此花開盡更無花 此の花開くこと尽きば更に花の無ければなり
【通釈】秋の草が家の周りにぎっしりと生えて、陶潜の家を思わせる。
籬のほとりを余さず廻り歩けば、ようやく日が傾く。
数ある花の内、ひたすら菊ばかりを愛するというのではない。
この花が咲き終われば、もはや全く花が無いからなのだ。
【語釈】◇秋叢 群がり生えている秋の草。菊を指す。◇陶家 陶淵明の家。淵明の詩に「採菊東籬下」とある(「飲酒」その五)。
【補記】一年の最後の花としての菊に対する愛着を詠む。和漢朗詠集に第三・四句が引用されている。但し第四句の「開盡」は「開後」とあり、普通「開けて後」と訓まれる。
【作者】元稹(779~831)。河南(洛陽)の人。元和元年(806)、進士に及第。権臣に阿らず、たびたび左遷の憂き目に遭う。白居易の親友で、「元白」と併称される。
【影響を受けた和歌の例】
目もかれず見つつ暮らさむ白菊の花よりのちの花しなければ(伊勢大輔『後拾遺集』)
霜枯れのまがきのうちの雪みれば菊よりのちの花もありけり(藤原資隆『千載集』)
うつろはで残るは霜の色なれや菊より後の花のまがきに(姉小路基綱『卑懐集』)
【参考】
菊の、まだよくもうつろひはてで、わざとつくろひたてさせ給へるは、なかなかおそきに、いかなる一本にかあらむ、いと見どころありてうつろひたるを、とりわきて折らせ給ひて、「花の中に偏に」と誦じたまひて(源氏物語・宿木)
菊の花もてあそびつつ、「らんせいゑんのあらしの」と、若やかなる声あはせて誦じたる、めづらかに聞こゆ。御簾のうちなる人々も、「この花開けて後」と、口ずさみ誦ずるなり(浜松中納言物語巻一)
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