白氏文集卷十七 醉吟 二首 ― 2009年12月02日
酔吟 二首 白居易
其一
空王白法學未得
姹女丹砂燒卽飛
事事無成身也老
醉鄕不去欲何歸
其二
兩鬢千莖新似雪
十分一盞欲如泥
酒狂又引詩魔發
日午悲吟到日西
【通釈】其一
仏陀の尊い教えは未だ学び得ず、
仙薬のため水銀丹砂を焼けば、たちまち飛散してしまう。
事ごとに成し遂げることなく身は老いてしまった。
酔いどれの天国に去るほか、私の行き場所はあるまい。
其二
わが千本の双鬢、それは雪のように白い。
十分に注いだ一盞、これで泥のように酔おう。
酒の昂奮が詩作の魔を引き起こし、
正午より時を忘れて悲吟し、日没に至る。
【語釈】其一◇空王
其二◇千莖 たくさんの毛髪。「千」は第二句の「一」と対偶。「莖」は細く長いものを数える助数詞。◇十分一盞 なみなみと注いだ一杯の酒。◇詩魔 詩情を起こし、詩作へ耽らせる不思議な力。◇悲吟 悲しみに泣くように吟じながら詩作する。
【補記】其一の第一句は仏教に、第二句は道教に志して挫折したことを言う。第三・四句が和漢朗詠集巻下「述懐」の部に引かれている。但し第四句は「醉郷不知欲何之」とあり、「酔郷を知らず何ちかゆかんとする」などと訓まれる。下記和歌はいずれも其一の第三句を踏まえたものである。
【影響を受けた和歌の例】
うづもれぬ後の名さへやとめざらむ成すことなくてこの世暮れなば(藤原良経『続古今集』)
月日のみなすことなくて明け暮れぬ悔しかるべき身のゆくへかな(同上『千五百番歌合』)
いたづらに秋の夜な夜な月見しもなすことなくて身ぞ老いにける(二条為定『新千載集』)
なす事もあらじ今はのよはひにも惜しみなれたる年の暮かな(烏丸光弘『黄葉集』)
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