白氏文集卷十六 春末夏初 閒遊江郭 其二 ― 2010年05月05日
柳影繁初合
鶯聲澁漸稀
早梅迎夏結
殘絮送春飛
西日韶光盡
南風暑氣微
展張新小簟 新しき
熨帖舊生衣 旧き
綠蟻杯香嫩
紅絲膾縷肥
故園無此味
何必苦思歸 何ぞ必しも
【通釈】柳の葉は盛んに繁って、その影はついに重なり合い、
鶯の声は滞って、しだいに稀になった。
早生りの梅は夏を迎えて結実し、
残りの柳絮は春を見送るように飛び漂う。
西日のうららかな光は尽きたが、
南風のもたらす暑気はまだかすかだ。
夏用の新しい茣蓙を敷いて、
旧年の夏衣に
美酒を満たした杯の香は初々しく、
紅い糸のように切った
故郷の長安にこの味は無い。
どうして帰りたいと悩む必要があろう。
【語釈】◇韶光 うるわしい光。春の陽光。◇小簟 「簟」は竹で編んだ莚。◇生衣 生絹で仕立てたひとえの衣服。夏用の衣服。◇熨帖
【補記】晩春から初夏にかけて江州(江西省と湖北省南部にまたがる地域)に遊んだ時の詠。二首あるうちの第二首。白居易が江州に左遷されていたのは元和十年(815)から十三年まで。第二句を句題として大江千里・小沢蘆庵が歌を作っている。
【影響を受けた和歌の例】
鶯はときならねばや鳴く声のいまはまれらに成りぬべらなる(大江千里『句題和歌』)
鳴きとめぬ花の梢はうぐひすのまれになりゆく声にこそしれ(小沢蘆庵『六帖詠草』)
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