白氏文集卷十三 旅次景空寺宿幽上人院 ― 2010年09月08日
景空寺に
不與人境接 人境と接せず
寺門開向山
暮鐘鳴鳥聚
秋雨病僧閑
月隱雲樹外 月は
螢飛廊宇閒 蛍は
幸投花界宿
暫得靜心顏 暫く
【通釈】景空寺は人里を遠く離れ、
寺の門は山に向かって開いている。
晩鐘が鳴ると、鳥たちが鳴きながらねぐらに集まり、
秋雨の降る中、病んだ僧が静かに坐している。
月は雲のように盛んに茂る樹の向こうに隠れ、
蛍は渡殿の廂と廂の間を舞い飛ぶ。
幸いにも浄土に宿を取り、
しばらく心と顔をなごませることができた。
【語釈】◇花界 蓮花界、浄土。景空寺をこう言った。
【補記】旅の途次、景空寺(不詳)に立ち寄り、幽上人(不詳)の僧院に泊った時の詠。「月隠(陰)雲樹外、蛍飛廊宇間」を句題に慈円と定家が歌をなしている。
【影響を受けた和歌の例】
秋の雨に月さへ曇る軒端より星とも言はじ蛍なるらん(慈円『拾玉集』)
時雨れゆく雲のこずゑの山の端に夕べたのむる月もとまらず(藤原定家『拾遺愚草員外』)
最近のコメント