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和歌歳時記:葉月(はつき/はづき) Eighth month of the lunar calendar2010年09月12日

桜紅葉

葉月は陰暦八月、仲秋。2010年では新暦の9月8日から10月7日までがそれに当たり、ちやうど白露から寒露前日までの三十日である。

平安末の藤原清輔著『奥義抄』はその語源につき「木の葉もみぢて落つるゆゑに葉落ち月といふをあやまれり」とし、「葉落ち月」を略したものと古人は考へてゐたやうだ。「はつき」を「葉尽き」の掛詞としてゐる歌が幾つか見える(下記引用歌)ことも、この語源説の補強材料にならうか。
もとより全般として落葉が本格化するのは晩秋からであるが、桜の葉などはこの時期すでに黄に色づいてをり、散り始める樹も少なくない。陰暦八月頃は、古人にとつて殊更木の葉に注意が向く時節だつたのだらう。

室町初期の成立と推測されてゐる歌集『蔵玉集』には、八月の異名として「秋風月」「月見月」「紅染(こぞめ)月」の三つを挙げてゐる。それぞれの証歌を同書から引かう。

秋風月  藤原定家

萩の葉に露吹きみだす音よりや身にしみそめし秋風の月

月初めはなほ残暑の厳しいこともあるが、やがて萩の花も散り、下葉が色づく頃には、秋風が吹き増さる。露を乱しつつ枝を靡かせる風の音が身に沁みて、季節のうつろひに感じ入つてゐる歌だ。

月見月  鴨長明

名にしおはば秋の半ばの空晴れて光ことなる月見月かな

もとより陰暦八月は十五夜名月の月だ。砂塵や蒸気に曇りがちだつた春・夏の月が、ここへ来てやうやく澄みまさり、月見には絶好の季節となる。

紅染月  藤原有家

時雨(しぐ)れつつ(はじ)の立ち枝ももみぢして紅染(こぞめ)の月のふかき(くれなゐ)

楓などは未しだが、葉月も半ばを過ぎれば時に時雨が降り、山では櫨の葉が色づいて、いよいよ紅葉の季節の始まりを告げる。

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  『教長集』(按察使公通十首会に野風を) 藤原教長
葉月とは名にこそたてれ野分して千草の花をさやははらはん

  『壬二集』(三宮十五首よみ侍りしに、秋歌) 藤原家隆
名もつらしはつきの嵐立田姫しばしな染めそ神なびの森
(注:「はつき」は「葉月」「葉尽き」の掛詞)

  『拾遺愚草』(詞書略) 藤原定家
または来じ露はらふ風は篠分けてひとり猪名野(ゐなの)の八月長月

  『新撰和歌六帖』(は月) 藤原為家
久かたの雲井の雁のこしぢよりはじめてくるや葉月なるらん

  同上  藤原信実
もみぢつつのちや散りなむ此の頃はいまだ葉月の神なびの森

  『続後拾遺集』(題しらず) 真昭法師
朝ぼらけなく音さむけき初雁の葉月の空に秋風ぞふく

  『草根集』(秋風) 正徹
あばらやにすむ山がつの麻手ほすはつきの嵐身にやしむらん
(注:「はつき」は「葉月」「泊木」「葉尽き」の掛詞)

  『雪玉集』(詞書略) 三条西実隆
名にしおはば梢の秋のけふの月葉月はうすき色にやありけん

  『柿園詠草』(野分) 加納諸平
小萩原さばかりおもき露ならしはつきの嵐心してふけ