白氏文集卷六 閑居2010年09月11日

竹林 鎌倉報国寺

閑居    白居易

深閉竹閒扉  深く()竹間(ちくかん)の扉
靜掃松下地  静かに(はら)松下(しようか)の地
獨嘯晩風前  独り(うそぶ)晩風(ばんぷう)の前
何人知此意  何人(なにびと)か此の意を知らん
看山盡日坐  山を()尽日(じんじつ)坐し
枕帙移時睡  (ちつ)を枕とし時を移して(ねむ)
誰能從我遊  (たれ)()く我に従つて遊ばん
遣君心無事  君をして心に(こと)無からしめん

【通釈】竹林の中の扉を深く閉ざし、
松の下の地を静かに清掃して、
独り夕風に向かい詩を吟ずる。
なんぴとがこの胸の内を知ろう。
山を見て終日坐し、
書を枕に暫しまどろむ。
誰か私と共に遊ぼうという人はないか。
君の心を無為の境地にしてあげように。

【語釈】◇無事 『老子』の「無事を事とし、無味を味はふ」、『荘子』の「無事の業に逍遥す」、『臨済録』の「無事是れ貴人」など、道家・釈家の書に頻出する「無事」に通じ、「寂静無為」のことという(新釈漢文大系)。

【補記】元和七年(811)から同九年(814)までの作。五言古詩による閑適詩。慈円・定家の歌は「深閉竹間扉 静掃松下地 独嘯晩風前 何人知此意」の句題和歌。寂身のは「深閉竹間扉 静掃松下地」。

【影響を受けた和歌の例】
夕ざれのながめを人や知らざらむ竹のあみ戸に庭の松風(慈円『拾玉集』)
夕まぐれ竹の葉山にかくろへて独りやすらふ庭の松風(藤原定家『拾遺愚草員外』)
ならひある夕べの空をしのべとや竹のあみ戸に松風ぞ吹く(寂身『寂身法師集』)