白氏文集卷五十一 落花 ― 2010年04月23日
落花 白居易
留春春不住 春を
春歸人寂寞 春帰りて人
厭風風不定 風を
風起花蕭索 風
既興風前歎 既に風前の
重命花下酌 重ねて
勸君嘗綠醅 君に勧めて
教人拾紅萼 人をして
桃飄火燄燄 桃
梨墮雪漠漠 梨
獨有病眼花 独り
春風吹不落
【通釈】春を留めようとしても春は留まらない。
春は去って行き人はしょんぼりとしている。
風を嫌がっても風はおさまらない。
風が吹き立ち花は寂れている。
ついに風前の灯と老いの歎きを起こし、
またも花の下で酒宴を開かせる。
君に美酒を嘗めるよう勧め、
人に紅い花びらを拾わせる。
桃の花が翻って、燃え立つ火のようだ。
梨の花が散って、いちめん雪のようだ。
ただ、病んだ私の目を霞ませる花だけは、
春風が吹いても落ちずに留まっている。
【語釈】◇風前歎 風前の灯のように老い先短いことの歎き。◇綠醅 美酒。◇紅萼 紅い花びら。以下の句によって桃と分かる。◇眼花 白内障などによる、かすみ目。
【補記】大和三年(829)から同六年頃の作かという(新釈漢文大系)。慈円・定家の第一首は「留春春不留、春帰人寂寞」を、第二首は「厭風風不定、風起花蕭索」を句題とした歌。また法印憲実の歌は「留春春不留」の句題和歌。【参考】に挙げた野水の句は「留春春不留、春帰人寂寞」を題とする。
【影響を受けた和歌の例】
をしめどもとまらぬ今日はよしの山梢にひとりのこる春風(慈円『拾玉集』)
山ざくら風に成行く梢よりたえだえおつる滝のしらいと(同上)
春のゆく梢の花に風たちていづれの空をとまりともなし(藤原定家『拾遺愚草員外』)
うらむとてもとの日かずのかぎりあれば人もしづかに花もとまらず(同上)
をしむにはよらぬならひと思ふだになほ歎かるる春の暮かな(法印憲実『閑月和歌集』)
【参考】
行春もこゝろへがほの野寺かな(岡田野水『詩題十六句』)
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