白氏文集卷六 首夏病閒 ― 2010年05月26日
首夏の病間 白居易
我生來幾時 我生まれてより
萬有四千日
自省於其閒 自ら其の
非憂即有疾 憂ひに
老去慮漸息
年來病初愈
忽喜身與心
泰然兩無苦 泰然として
況茲孟夏月
淸和好時節
微風吹裌衣 微風
不寒復不熱 寒からず
移榻樹陰下
竟日何所爲
或飲一甌茗 或いは
或吟兩句詩 或いは両句の詩を吟ず
内無憂患迫 内に
外無職役羈 外に
此日不自適 此の日
何時是適時
【通釈】私が生まれてから幾時が経ったのか。
一万と四千日だ。
自らその間を省みれば、
心に悩みがあるか、さもなければ病に苦しんできた。
老いて以来、憂慮することもようやく無くなり、
この数年は、病も癒えてきた。
ゆくりなくも、身と心と、
落ち着きを得て、二つながら苦しみのないことを喜ぶ。
ましてこの初夏の月、
清らかで和やかな好い季節。
そよ風が袷の衣服を吹き、
寒くもなく、また暑くもない。
長椅子を木陰の下に移し、
終日、することと言えば、
あるいは一碗の茶を喫し、
あるいは両句の詩を吟ずるばかり。
我が心の内に不安が迫ることもなく、
我が身は外で職務に縛られることもない。
今この日々を悠々と楽しまずして
いつが自適の時であろうか。
【語釈】◇老去 年を取って。◇孟夏月 陰暦四月。夏の最初の月。◇裌衣
【補記】元和六年(811)、四十の歳、病が癒え小康を保っていた頃の作。五言古詩による閑適詩。慈円・定家・寂身の作は「微風吹裌(袂)衣 不寒復不熱」の句題和歌。
【影響を受けた和歌の例】
夏の風になりゆく今日の衣手の身にしまぬ色ぞ身にはしみける(慈円『拾玉集』)
たちかふるわが衣でのうすければ春より夏のかぜぞすずしき(藤原定家『拾遺愚草員外』)
朝まだき日影もうすき衣手にいつより風の遠ざかるらん(寂身『寂身法師集』)
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://yamatouta.asablo.jp/blog/2010/05/26/5115544/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
最近のコメント