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杜少陵詩集卷二十二 淸明2010年04月04日

清明     杜甫

此身飄泊苦西東  此の身飄泊(へうはく)して西東(さいとう)に苦しむ
右臂偏枯半耳聾  右臂(うひ)偏枯(へんこ)して半耳(はんじ)(ろう)
寂寂繋舟雙下涙  寂寂(せきせき)舟を繋げば涙(なら)()
悠悠伏枕左書空  悠悠枕に伏して(ひだりて)(くう)に書す
十年蹴鞠將雛遠  十年蹴鞠(しうきく)(すう)(ひき)ゐて遠し
萬里鞦韆習俗同  万里鞦韆(しうせん)習俗同じ
旅鴈上雲歸紫塞  旅雁雲に上り紫塞(しさい)に帰る
家人鑽火用青楓  家人火を()るに青楓(せいふう)を用う
秦城楼閣鶯花裏  秦城の楼閣鶯花(あうくわ)(うち)
漢主山河錦繍中  漢主の山河錦繍(きんしう)(うち)
春去春來洞庭闊  春去り春来りて洞庭(どうてい)(ひろ)
白蘋愁殺白頭翁  白蘋(びやくひん)愁殺(しうさつ)白頭翁(はくたうおう)

【通釈】この身はあてどなくさまよい、西に東に苦しむ。
右腕は固まって動かず、片耳は聞こえない。
ひっそりと舟を岸に繋げば、涙が両眼から落ちる。
ゆったりと枕に頭を休め、左手で空に文字を書く。
十年、幼い子を連れてさ迷い、蹴鞠のような遊戯から遠ざかっていた。
万里を旅して、春のぶらんこはどの土地も同じなわらしだが、私らとは無縁だ
旅をする雁は雲の上を行き、北方の万里の長城へと帰る。
妻は旅先にあって火を打ち出すのに青い(ふう)の木を用いる。
長安の高殿は、鶯の声と花の色に籠められているだろう。
漢の皇帝が治めた山河は、錦織のような彩色のうちにあるだろう。
春が去りまた訪れて、洞庭湖の水面は広々とし、
うら白い水草はこの白頭翁を愁いに死なしめる。

【語釈】◇左書空 右腕が「偏枯」しているため、利き腕でない左手で書く。しかも紙は乏しいから空に書くというのである。◇鞦韆 ぶらんこ。清明節に若い娘がこれで遊ぶ風習があった。◇紫塞 万里の長城。唐の北辺にあり、雁はここを越えて故郷へと向かう。◇秦城楼閣 長安の重層建築。◇鶯花裏 「烟花裏」とする本もある。◇錦繍 花や新緑が織り成す美しい色彩を錦織物に喩えた。◇洞庭湖 中国湖南省の北部にある湖。◇白頭翁 頭髪が白い翁。詩人自身を指す。

【補記】死の前年、大暦四年(769)、五十八歳の作。四月五日清明節の日、人々が蹴鞠や鞦韆で遊ぶ中、宿に泊まることもできず、苫舟に寝泊まりしながら家族を連れて放浪するさまを詠む。同題二首の第二首。『新撰朗詠集』巻上「春興」に「秦城楼閣鶯花裏 漢主山河錦繍中」が引かれている。

【影響を受けた和歌の例】
春を待つ花のにほひも鳥の音もしばしこもれる山の奥かな(藤原良経『秋篠月清集』)
霞かは花うぐひすにとぢられて春にこもれる宿のあけぼの(藤原定家『六百番歌合』)

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