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佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面10 三輪山2015年04月08日

大神神社 奈良県桜井市

三輪山

三輪駅より近し。官弊大社大神神社はその麓にありて大物主命を祀る。

額田王

三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなむ隠さふべしや

よみ人知らず

わが庵は三輪の山もと恋しくはとぶらひ来ませ杉立てるかど

村田春海

三輪山や花より後のかげもよししげ木がもとに若葉さす頃

補録

三輪山

柿本人麻呂

いにしへにありけむ人もがごとか三輪の檜原ひばら挿頭かざし折りけむ

紀貫之

三輪山をしかもかくすか春霞人に知られぬ花や咲くらむ

伊勢

三輪の山いかに待ち見む年ふともたづぬる人もあらじと思へば

藤原清輔

かざし折る三輪の檜原のの間よりひれふる花や神の八乙女

禅性

初瀬山夕越え暮れて宿とへば三輪の檜原に秋風ぞ吹く

源実朝

ながむれば吹く風すずし三輪の山杉の梢を出づる月影

順徳院

花の色になほ折しらぬかざしかな三輪の檜原の春の夕暮

木下長嘯子

夕立の杉の梢はあらはれて三輪の檜原ぞまたくもりゆく

巻向まきむく

柿本人麻呂

鳴神なるかみの音のみ聞きし巻向の檜原の山を今日見つるかも

巻向の山辺とよみて行く水の水沫みなわの如し世の人われは

伝柿本人麻呂

巻向の檜原もいまだ雲居ねば小松がうれゆ沫雪流る

巻向川

柿本人麻呂

ぬば玉の夜さり来れば巻向の川音高しも嵐かも

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新刊のお知らせ 藤原定家全歌集(補訂版)2015年04月08日

昭和十五年十月に文明社が刊行した冷泉為臣編『藤原定家全歌集』を原本とし、電子書籍として復刊したものです。
以前の記事にも書いたのですが、原本は誤植・誤刻が非常に多いので、定家自筆本などに当たって「補訂」しました。
原本の誤りが多いことには、それなりの避けがたい理由がありました。この本の序にも書いたのですが、底本に用いた定家自筆本は冷泉家の秘本であったため、部外者による校閲・校正が困難であったことに最大の原因があったろうと思います。また、定家薨後七百年祭に向けて刊行を急いだらしいことも一因でしょう。出版の翌年には太平洋戦争が始まり、まもなく為臣氏は出征して、昭和十九年に大陸で戦死してしまわれましたから、編者自身による改訂は不可能だったのです。
昭和四十九年には国書刊行会から覆刻版が刊行されましたが、訂正は一切されないままでした(覆刻だから当たり前なのですが)。

平成四年から冷泉家時雨亭叢書の刊行が始まり、定家の『拾遺愚草』の自筆本も影印版で読めるようになりました。私は少なからぬ疑問を持っていた『藤原定家全歌集』と読み比べてみて、想像以上の不一致の多さに愕然とすることになったわけです。
その後、折々『全歌集』の余白に訂正の書き込みを続け、書き込みだらけになってしまったので、電子テキストにして、できる限り他本との校合を進めてきました。
冷泉家時雨亭叢書など古写本の影印版が多数刊行され、また国立国会図書館を始めとする各地の図書館が厖大な古写本・古刊本等の画像・PDFを公開するようになったおかげで、私などのように何処にも所属しない一私人でも、書斎にいながらにして古典籍の校訂が十分可能になっているのです。

例えば、『全歌集』の「拾遺愚草員外之外」には正篇・員外未収録の『明月記』中の歌も漏れなく収められているのですが、長年疑問に思っていた歌があります。寛喜三年八月十九日条の、

今も月のみやこはよそなれと猶かけかくす秋そかなしき

『全歌集』ではこのようになっているのですが、国書刊行会版の『明月記』を見ると、次のような形で載っています。

今も月の都はよそなれと猶かけかくす秋そかなしき

久保田淳氏の『訳注藤原定家全歌集』でも国書刊行会版『明月記』に拠ったのでしょうか、「今も唯」となっています。どうも「唯」の方が正しいらしいけれど、「ただ」という語が一首にしっくり嵌らないと、首をひねりました。
ところが時雨亭叢書の定家自筆『明月記』を見ると、次のようになっていたのです。

「今もこれ」が正しく、『全歌集』・国書刊行会版『明月記』、どちらも誤っていたことが明らかになったわけです。

こうした誤りが、『全歌集』には、私の調べでは946箇所ありました。

もう一つ例をあげますと、『全歌集』には鷹詞(鷹匠の専門用語)で鷹飼の奥義(?)を綴った奇書「鷹三百五十一首」も収められているのですが、これは国立国会図書館のデジタルコレクションで公開されている古写本『鷹三百首』と同系統の本をもとにしたことが明らかです。これによって『全歌集』所収「鷹三百五十一首」の誤りをほぼ正すことができます。『群書類従』の「鷹三百首和歌」は別系統で異同の多い本ですが、もちろんこれも参考になります。

もとより図書館などに出掛けねばならないこともありましたが、おおかた蔵書とネットによって、『藤原定家全歌集』の最小限の補訂はできたと思います。

原本は600ページを超える大冊で、校正に多大な労力と経費がかかってしまったため、自主出版の電子書籍にはあるまじき値段となってしまいましたが、基本的には、昔(私が学生の頃)の岩波文庫のように100円や200円で購読できる電子書籍を作ってゆきたいと思っています。よろしくご愛顧のほどお願いいたします。

なお、上に掲げた表紙は、原本のカバー表紙をスキャンして加工したものです。古めかしく見えるのはそのためです。

本書はDRMフリーなので、コピーしたり別のファイル形式に変換したりすることができます(できるはずです)。epubファイルを解凍すればいくつかのxhtmlファイルと画像ファイルになりますので、加工するなどして研究等にご自由に活用して頂けます。

古典籍や名著と言われる本にも、誤りは少なくありません。これを補訂して復刊することが望ましいのですが、こうした仕事は、専門の研究者と出版社の専売特許ではなくなりつつあると思います。特定の条件を満たす書に限られることは勿論ですが、ある程度の知識と素養があれば、誰にでもできる時代になってきたと思います。
力倆ある多くの方がさまざまの古典・古書を生き返らせてくれたら、そして安価に(!)出版してくれたら、と願ってやみません。

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藤原定家全歌集(補訂版)

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以下は関連書へのリンクです。
明月記 翻刻一

同 定家自筆本影印版四

明月記 国書刊行会版