佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面13 下市~吉野山 ― 2015年04月12日
桜井線の終点高田駅より和歌山線によりて吉野、高野方面に至るべし。その吉野口駅より吉野へ吉野鉄道あり。
下市
吉野鉄道の下市口駅より南九町。吉野川の左岸にあり。
夕明りほのかに夢を見るやうな黒髪塚のきんぽうげの花
六田の渡
吉野鉄道の終点吉野駅にあり。
高瀬さす六田の淀の柳原みどりもふかく霞む春かな
春されば六田のよどのやなぎ原みどりに見ゆる風の色かな
吉野山
昔たれかかる桜の花をうゑて吉野をはるの山となしけむ
吉野山さくらが枝に雪散りて花おそげなる年にもあるかな
吉野山去年のしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねん
吉野山やがて出でじと思ふ身を花散りなばと人や待つらむ
もろこしの人に見せばやみ吉野の吉野の山の山ざくら花
奧深く尋ね入らずば吉野山人にしられぬ花をみましや
昔おもふ吉野の山の遠近に花ふきわけてゆくあらしかな
花山の朝ゐる雲に打のりて心空なり土はふめども
よしの山霞のおくは知らねども見ゆる限はさくらなりけり
さくら花匂ふ吉野の山ながらわが御仏にたてまつらばや
ゆくも花かへるも花の中道を咲き散る限ゆきかへり見む
補録
六田の渡
かはづ鳴く六田の河の川楊ねもころ見れど飽かぬ河かも
これを見よ六田の淀にさでさしてしほれし賤の麻衣かは
舟つなぐ影も緑になりにけり六田の淀のたまのを柳
吉野
天皇(天智天皇)吉野宮に幸しし時の御製の歌
淑き人のよしとよく見てよしと言ひし芳野よく見よよき人よく見つ
み吉野の山のあなたに宿もがな世の憂き時のかくれがにせむ
春たつといふばかりにやみ吉野の山もかすみてけさは見ゆらむ
朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪
いづくとも春の光は分かなくにまだみ吉野の山は雪降る
白雲と見ゆるにしるしみよしのの吉野の山の花ざかりかも
吉野山みねの桜や咲きぬらむ麓の里ににほふ春風
なにとなく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山
吉野山こずゑの花を見し日より心は身にもそはずなりにき
さくら花咲きにし日より吉野山そらもひとつにかをる白雲
み吉野は山もかすみて白雪のふりにし里に春は来にけり
み吉野の高嶺のさくら散りにけり嵐もしろき春の明けぼの
しら雲や花よりうへにかかるらむ桜ぞたかきみ吉野の山
あすも来む風しづかなるみ吉野の山の桜はけふ暮れぬとも
里人い桜うゑつぐ吉野山神の御ためと桜うゑつぐ
咲く花のあだなるかたにうつりゆく吉野の山の名こそ惜しけれ
ひとたびは見むよしもがな名ぐはしき吉野の山の花のさかりを
山の背に 続きかゞやく吉野の町。棟も甍も 花の中なる
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