佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』大和紀伊方面15 高野山 ― 2015年04月16日
高野口もしくは橋本より南方に登る。四里内外にして高野山金剛峰寺に到る。
高野山うき世の夢もさめぬべしその暁の松のあらしに
紀の国の高野の奥の古寺に杉のしづくを聞き明しつつ
高野山こけのとぼそはしづかにて音もきこえず春雨のふる
千歳へし杉の下道たどりつゝ高野の奥にきく時鳥
杉木立月かげ漏るゝみ山路に三宝鳥の鳴くを待ちつゝ
水の音遠くふけゆくみ山路をこゝろゆくまで鳴き渡る鳥
御霊屋の火影をぐらく森深み汝が声のみは獅子吼なりけり
今ははや水鳥樹林一如なり仏法僧のこゑのみにして
更けし夜を御廟の土にひざまづき吾師博士としばし祈りし
岩を穿ち宝ほる如古文書をしらぶる室の蓮の香の清さ
山の上に初春きたる八百あまり八十のみ寺は雪に鐘打つ
高野山のぼる坂路の杉村の雨の中なる鶯の声
大杉をみあぐる目にしあを空の晴々としてうつるなりけり
いつの世か我家の祖の捧げけむ貧の一燈もまじりてをあらむ
高野山杉生の奥の常燈にならびて出でし春の夜の星
おとし文人に見られて時鳥うらはづかしき音をや鳴らむ
補録
暁を高野の山に待つほどや苔の下にもあり明の月
昔思ふ高野の山のふかき夜に暁とほくすめる月かげ
風の音も高野の山の明け方にうち驚けば暁の声
くにぐにの城にこもりし現身も高野の山に墓をならぶる
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