佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』京都附近9 京都ここかしこ ― 2015年03月09日
聖護院の枝垂れ桜(京都の桜フリー写真より)
京都こゝかしこ
むしろたてて瓜苗つくる聖護院春日うらゝにひばりなくなり
春風の三条四条夕ぐれを旅人さびて歩みけるかな
鞍馬道石運び来る牛車牛の背にちる山ざくらばな
青きいらか丹ぬりの柱絵の如き平安宮の春の日うらら
細うかいた美しい仮字見る様な春雨がふる三条五条
いつの日か絵巻に見たる東福寺通天橋にちる紅葉かな
京の雪祇園清水黒谷の塔につもれるなつかしさかな
佐佐木信綱編『和歌名所めぐり』京都附近10 洛南(深草~淀) ― 2015年03月09日
深草
京都市の南郊。元政の墓あり。
深草や竹のは山の夕ぎりに人こそ見えね鶉なくなり
竹三本わづかにたてり深草や清きひじりのおくつきどころ
伏見
京都南方の市街。
ふしみ山松のかげより見渡せば明くる田の面に秋風ぞ吹く
呉竹の伏見の里を朝行けば遠近に鳴くうぐひすの声
旅なれば伏見の街の夜半の灯も悲しくひとり京へいそぎぬ
伏見の街ほし並べたる人形を笑うて撫でて春の風ふく
三夜荘父がいましし春の頃は花もわが身も幸多かりし
伏見桃山陵
京都の南方、伏見町の東方にあり。
うら悲しみささぎ山を中にして大天地は秋さびにけり
駒たてて大み軍を閲しまししそのかみ思ふに涙せきあへず
神ながら吾大君の眠りいます伏見の御山尊くもあるか
乃木神社
昭憲皇太后の御陵より南に下る道にあり。
桃山の陵守る御社にかしこみ並ぶからかねの駒
淀
伏見の南、淀川に臨めり。
いづ方に鳴て行くらむほとゝぎす淀のわたりのまだ夜深きに
一声は空に流れて淀川の淀むまもなく行くほとゝぎす
旅人のいかに乗りてか淀船の苫の上なる数のすが笠
くらき夜は船も見えねど淀川の水の上ゆく燈火のかげ
補録
深草
深草の里に住みけるを、京にまで来とて、そこなる女に
年を経て住みこし里を出でていなばいとど深草野とやなりなむ
返し
野とならば鶉となりて鳴きをらむかりにだにやは君が来ざらむ
堀河の太政大臣身まかりにける時に、深草の山にをさめてけるのちによみける
空蝉はからを見つつもなぐさめつ深草の山煙だにたて
深草の野辺の桜し心あらば今年ばかりは墨染に咲け
夕されば野べの秋風身にしみてうづら鳴くなり深草の里
思ひ入る身は深草の秋の露たのめし末や木枯しの風
その色とわかぬあはれもふか草や竹のは山の秋の夕ぐれ
里の犬のあとのみ見えてふる雪もいとど深草冬ぞさびしき
伏見
巨椋の入江響むなり射目人の伏見が田居に雁渡るらし
仁和のみかど、嵯峨の御時の例にて、芹河に行幸したまひける日
嵯峨の山みゆきたえにし芹河の千世のふるみち跡はありけり
夢かよふ道さへたえぬ呉竹の伏見の里の雪の下折れ
をしねほす伏見のくろにたつ鴫の羽音さびしき朝霜の空
伏見山裾野をかけて見渡せば遥かに下る宇治の柴舟
今よりや伏見の花になれてみん都の春も思ひわすれて
いめびとの伏見の里を朝ゆけば梅が香ならぬ風なかりけり
淀
山城の美豆野の里に妹をおきていくたび淀に舟よばふらん
狩り暮らし交野の真柴をりしきて淀の河瀬の月を見るかな
はるばると鳥羽田の末をながむれば穂波にうかぶ淀の川舟
夕まぐれ淀野の沢をたつ鴫のゆくへさびしき水の色かな


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